ジュースのようにそのまま飲んだり、サプリメントとして服用したりと、健康ブームの中で欠かせない存在になっている「もろみ酢」であるが、このもろみ酢の開発は沖縄で泡盛造りを営むひとりの男性によるものであった。もろみ酢を開発したのは、伝統的なカメ仕込み製法で泡盛を造り続ける、石川酒造場二代目の石川信夫氏である。信夫氏は東京農大で酒造りを学んだ後、家業を継いで泡盛業界の振興・発展に尽力している人物だ。先代から泡盛の製造過程で生じる廃液である、もろみを豚に与えると、豚が健康になるという話を聞いており、このもろみが有効利用できるに違いないと考えていたという。もろみには健康を促すさまざまな成分が含まれている。アミノ酸や各種ビタミン類などである。その中でもとくにクエン酸の含有率が高い。クエン酸には、疲労物質である乳酸の生成を抑える働きがあり、体内をアルカリ性に保って活性化させる効果がある。生活習慣病の予防や治療をはじめ、肩こり、腰痛にも効くとされる。また、体内子不ルギーを燃焼させやすくする働きもある。新陳代謝が良くなって余分な脂肪を排除しやすい体質に改善できるのだ。そして殺菌効果も高いことから、腸内環境を正常にする力もあるという万能な成分なのである。気温の高い沖縄の地で酒の生産が可能であるのも、このクエン酸のおかげである。石川氏はこの成分豊富な廃液にいち早く着眼し、まず「もろみ酸」と命名し、調味料や清涼飲料として製品化するべく研究を行なった。泡盛は黒麹菌を使って発酵させるのが特徴だが、とっつきにくい黒麹菌の黒色を琥珀色に変えた。また、黒糖を加えて酸味と香りを和らげた。他の酢と違って、もろみ酢が酸っぱくないといわれているのは、石川氏の研究の成果である。昭和四十八年の展示即売を皮切りに、必ずや市場が拡大すると信じて設備投資を行ない、本社の移転も行なって準備を進めていった。それが功を奏し、数年後には一大健康ブームを迎えてお酢製品も話題の中心となり、平成六年頃から、もろみ酢の市場も一気に拡大していったのである。